新型コロナ感染確認者の発生状況について
矢作直樹
第一話
世界中が新型コロナ感染症で騒がしくなっているので、まずはこれまでの状況を客観的に捉えることにします。拙文は、誰もが利用できるデータを用いて現況を概観し、皆さまの日々をお過ごしになる上で一助になれば幸いというささやかな願いで書いています。専門家ではなく一般の方々に理解が得られるよう、なるべく平易で簡潔になるように心がけます。一度にたくさんのことを述べるのではなく、トピック毎に回をあらためて述べていければと思います。
今回は、今までの概観をしてみます。
幸いなことに4月14日、WHOが全世界の国毎のデータを近日(4月16日または17日まで)まで日毎に提示したので、患者確認数と患者死亡数はこのWHOのデータ(https://covid19.who.int/)を、人口は各国統計庁、ユーロスタット、PopulationPyramid.netのうち最新のもの(すべて2019年)を用います。
ここでは4月18日現在、患者確認数上位32ヶ国を対象としました。これで、ヨーロッパ、アジア・中近東、南北アメリカ大陸の主要な国々が入っています。
はじめに状況をつかむ前提となる言葉の使い方について。“感染者”という場合、症状が出ている顕性感染者と、症状の出ていない不顕性感染者がいます。ウイルス感染症の場合、臨床的には確定診断は、臨床症状や経過、体液検査、画像診断などで総合的に判断します。
今回の新型コロナウイルスの場合も本来はこれらで総合的に判断すべきものです。ところが、“新型”という性質上、臨床症状や経過、あるいは画像診断は手探りで実態が少しずつ明らかになっていきます。また体液検査、この場合は血液になりますが、ウイルスですので今巷で耳にするPCR検査が行われます。
PCR検査の診断の特性については専門家の方々がすでに陽性だけでなく、他のウイルスなどによる偽陽性、あるいは感染していても様々な要因により偽陰性になる理由を説明してこられているのでここでは省きます。
繰り返しになりますが、“感染者”イコールPCR検査陽性者ということではありません。メディアなどで感染拡大というような表現がされていますが、本当に感染しているかどうかは臨床的な判断が必要ですが、必ずしも容易ではありません。
WHOでは、先週は一部の国(米国)の症例についてconfirmedとprobableの両方が表示されていましたが、今は全世界についてconfirmedのみが表示されていますので、この数字を用います。
ご覧のように1枚の図にすると、
- 1. 中華人民共和国での患者確認者が1月下旬から急増し2月中旬から微増していること
- 2. この図の多くの国々では2月下旬から患者確認者が増え始めていること
- 3. これらの国々での患者確認者が3月に入って急増していること
- 4. 国々により患者確認者の増加の程度に極めて大きな開きがあること(スペインは日本の500倍)
- が伺えます。
患者を確認すること、は先述したように容易ではないので時期によっても国によっても正確性が異なることに注意が要ります。そもそも、最近は国により診断に対して臨床現場に介入して過大に報告させようとしたという報告までありますので、ここではあくまでもWHOのデータを“信じて”話をすすめていきます。
さまざまな要因により数に影響を受ける患者確認者についてさらにみていく前に、感染症の転帰で皆さまがもっとも気にされているのが“死亡”かと思いますので、先にこちらについてみてまいります。診断と同様、死亡診断書に書かれる死亡の理由も誤る可能性はあります。はじめの頃は別の診断名であったかもしれません。ただ現在は、臨床経過や画像診断により新型コロナウイルスによる臨床症状や特徴的な肺炎像がわかってきています。ですので診断数は実数に近づくものと思います。
さて、新型コロナ感染症による国別死亡者数の推移(累積)を3枚のグラフに示します。
なぜ3枚に分けたかというと、国ごとの死亡者数のレンジに大きな差があるからです。ヨーロッパの主要な国々は人口比換算で、日本やパキスタンの100倍から400倍近い高率です。
ここで3枚の図を眺めてみると、高死亡率群では、イタリアやスペインのように3月はじめから死亡者が出て、それ以外の国々では中死亡率群と同様、3月下旬から急増しています。
なお、1月下旬から感染確認者、死亡者を大量に出した中華人民共和国はすでに微増となっています。
低死亡率群では、韓国のように2月下旬から死亡者を出しはじめ、現在まで微増している国を別にすると、3月から死亡者が僅かに出始め3月が終わる頃より増加しています。なお日本は、韓国と同じよう2月下旬から死亡者が出ていますが、とりあげた感染確認者上位国の中では、現在に至るまでパキスタンと並んで最少で、百万人当たり1人です。
図からは、中華人民共和国のように増加フェーズから微増に転じている国を除いて、微増から直線的増加を示しています。少なくとも現時点までは死亡者が指数関数的(複利計算を想像してください)に増えている国はありません。少し専門的になりますが、より客観的に傾向(トレンド)が分かり易いよう死亡者数(縦軸)を片対数にしたものをお示しします。日付を省きます。
縦軸は、死亡者が10倍になる毎に倍になります。つまり、もし死亡者が“指数関数的に増えている”、のであれば、この図で死亡者の累積が上図のように上に凸の曲線ではなく、直線になります。
少なくとも患者が増加し出してから2ケ月以上の経過で見る限りでは、死亡者は“指数関数的に増えて”はいません。
もちろんこれからどう変化するかはわかりません。日本のように経過が長い割にあまりに少なく、僅かの増加でありながら“指数関数的に増える”フェーズが生じるかもしれません。それはこれからの私たちの暮らし方にかかっています。少なくとも世間とは異なることを述べていくことになるでしょう。
では、なぜ欧米のように渡航制限や都市封鎖のような強力な対抗策をうった国々でこのように極めて高死亡率で、日本は水際を止めずゆるやかな対応しかしなかったのに極めて低死亡率なのかについては、多くの要因があるので丁寧な考察が必要かと思います。
次回は、この感染確認者数の累積の解釈と対策についてお話するかもしれません。ここまでお読みくださった方々に感謝いたします。