第16回世界バレエ・フェスティバル開催
8月13日〜22日 東京文化会館
レポート:渡辺真弓
第16回世界バレエ・フェスティバルが、8月13日(金)東京文化会館で開幕しました。
まずはAプロ。
今の状況下で、予定されたメンバーの大半が来日できたことにただ感謝。開幕前に、主催者から「薄氷を履む思いで開催にこぎつけた」と関係者への感謝の挨拶がありましたが、各方面の熱意と協力のほどが偲ばれます。
参集したのは、男女それぞれ11名の世界バレエ界のスターたち。3部にわたって、13曲の熱演を繰り広げ、半ば満席の会場は感動と興奮の坩堝と化しました。
今回は、出入国の厳しい英国勢が少ない反面、バレエ王国ロシアのボリショイ・バレエからスヴェトラーナ・ザハーロワはじめ4名ものプリマ・バレリーナが出場。我が日本勢も健闘、英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルの金子扶生、ハンブルク・バレエ団プリンシパルの菅井円加、パリ・オペラ座バレエ団プルミエール・ダンスーズのオニール八菜の3名の活躍が誇らしく感じられました。
第1部は、「ゼンツァーノの花祭り」で開幕。オニール八菜とマチアス・エイマンのオペラ座カップルの洗練された技巧に魅了されました。とりわけエイマンの宙に浮くようなジャンプや火花が散るようなバットゥリー等の超絶技巧は必見です。
続く、ボリショイ・バレエのオリガ・スミルノワとマリインスキー・バレエのウラジーミル・シクリャローフの「ロミオとジュリエット」より第1幕バルコニーのパ・ド・ドゥは、情熱のロミオに天女のように清らかなジュリエットの組み合わせが神々しく映りました。
ノイマイヤー振付「パーシスタント・パースウェイジョン」では、ベートーヴェンの楽曲に乗って、菅井円加とアレクサンドル・トルーシュが知的かつ深みのある演技で、振付のエッセンスを表出。
クランコの「オネーギン」より第1幕のパ・ド・ドゥでは、オペラ座のドロテ・ジルベールとシュツットガルト・バレエのフリーデマン・フォーゲルという、この催しならではの異色の組み合わせが実現しました。
第2部は、最近亡くなったカルラ・フラッチとパトリック・デュポンを追悼して懐かしの映像上映がありました。共に、世界バレエ・フェスティバルの華として名声を博してきましたが、フラッチは第1回の「ラ・シルフィード」で可憐な妖精ぶりを、デュポンは第5回の「白鳥の湖」全幕での道化と「ドン・キホーテ」における天衣無縫の名演を再現。偉大な二人のスターに盛大な拍手が送られました。
本編は、ダニール・シムキンが「白鳥の湖」より第1幕のソロを端正に踊ってスタート。
続く、「ジュエルズ」より “ダイヤモンド"では、オペラ座のエトワール・カップル、アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオがまさに宝石の輝きそのもので眩しいばかり。
英国ロイヤル・バレエの金子扶生とワディム・ムンタギロフは、マクミランの「マノン」を情感豊かに。ベテラン、アレッサンドラ・フェリとマルセロ・ゴメスは、プレルジョカージュの「ル・パルク」で円熟の味わいをしっとりと。
最後は、ボリショイ・バレエのエカテリーナ・クリサノワとマリインスキー・バレエのキム・キミンが、「海賊」で超絶技巧を競い、第2部を締めくくりました。特にキミンの雄大な跳躍が会場を沸かせました。
第3部は、ジル・ロマンの「スワン・ソング」で幕開け。振付はジョルジオ・マディア、バッハとベジャールの声をバックに、過去、現在、未来への想いが淡々と綴られました。
ここで再びフォーゲル登場、「オネーギン」より第3幕のパ・ド・ドゥをエリサ・バデネスと踊り、劇的なクライマックスを導きます。
今回急遽出演となったスヴェトラーナ・ザハロワの「瀕死の白鳥」はもはや孤高の境地。数日前の8月11日前橋公演では、夫君レーピンのヴァイオリンとハープの演奏でしたが、今回は、チェロ(伊藤悠貴)とピアノ(菊池洋子)の伴奏で、一期一会の名演を刻印しました。
ラストを飾ったのは、ボリショイの定評のペア、マリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフの「ライモンダ」。曲の組み合わせが独特で、風格ある演技がさすがと思わせました。
開幕の音楽が、マイヤーベーアのオペラ『預言者』より「戴冠式行進曲」であったのに対し、カーテンコールは『眠れる森の美女』のアポテオーズ。会場の照明が落ちた途端、舞台及び天井に華やかな打ち上げ花火のプロジェクション・マッピングのサービスがあり、客席は総立ち。夢と希望を与えてくれた初日公演でした。
(写真は初日ロビーの様子)
指揮: ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
Aプロ及びBプロの舞台の模様は、9月発売の本紙で改めてご紹介する予定です。